11代続く伝統と革新|高橋農園が守り、育てる究極のサツマイモ
埼玉県入間郡三芳町。
東京から車でわずか1時間半という好立地にありながら、江戸時代から続く歴史と豊かな自然が息づくこの地は、「川越いも」の産地として知られています。

県道56号線沿いに軒を連ねる通称「いも街道」には、29戸のサツマイモ農家がひしめき合い、その中でもひときわ輝きを放つのが、11代続く老舗農家「高橋農園」です。
園主の高橋敦士さんは、JA埼玉県青年部協議会の委員長を務めるなど、若手農業者のリーダーとして活躍する、この地の未来を担う存在です。
この記事では、彼が守り続ける伝統と、そこに革新を吹き込む情熱についてお届けします。
320年の歴史が育んだ「富の川越芋」

三芳町のサツマイモ栽培の歴史は、1694年に川越藩主・柳沢吉保公が行った開拓にまで遡ります。
約320年前に整備された屋敷と平地林、そして短冊状に広がる畑が、今も美しい景観として残っています。
この長い歴史の中で培われた「富の川越芋」というブランドは、生鮮用だけでなく、製パン業者や菓子店といった業務用としても高い評価を受けています。
良品から規格外品まで高単価で取引される、全国でも稀有な優良産地であり、その中でも高橋農園は、この地の伝統を象徴する存在です。
高橋農園は、1.7ヘクタールもの広大な圃場で、様々なサツマイモを栽培しています。
定番の「ベニアズマ」から、しっとり系で人気の「べにはるか」、なめらかな食感の「シルクスイート」、そして希少な地域特産品種「紅赤」まで、実に12品種ものサツマイモを手掛けています。
多様な品種を育てることは、単に消費者ニーズに応えるだけでなく、後継者や栽培技術の継承という、農業が抱える大きな課題にも向き合う、高橋さんの強い意思の表れでもあります。
「放っておいても育つ?」は間違い。サツマイモ栽培の奥深さ

サツマイモは、戦時中の食料というイメージから、「放っておいても育つ」と思われがちです。
しかし、高橋さんの話を聞くと、その認識がいかに浅はかであったか痛感させられます。
キレイで美味しいサツマイモを育てるためには、膨大な手間と繊細な技術が求めらるのです。
サツマイモ栽培は、肥料設計と土作り、種芋からの苗栽培、植え付け、除草、虫対策、そして収穫、貯蔵という、多くの工程を経てようやく完成します。
植え付け一つとっても、その方法でサツマイモの形や収量が大きく変わります。
また、管理を怠れば味が落ちたり、病気にかかってしまい、収穫ができなくなることも。

特に、多くの人が知らないのが、サツマイモの貯蔵の難しさです。
暑すぎても、寒すぎてもすぐに腐ってしまう、非常にデリケートな作物なのです。
高橋農園では、長年の経験と勘、そして最新の技術を駆使して、一年を通して質の高いサツマイモを消費者に届けています。2020年にはZ-GIS(農業用地理情報システム)を導入するなど、伝統を守るだけでなく、科学的なデータも活用しながら、品質向上に努めています。
「べにはるか問題」と、品種を守る決意

近年、農業界では「べにはるか問題」という言葉がささやかれています。
しっとり系の代表格である「べにはるか」は、万人受けする甘さに加え、病気に強く栽培が容易。
そのため、新規就農者や一部の農家がこの品種一本に絞るケースが増えているのです。
しかし、高橋さんは、この現状に危機感を抱いています。
「べにはるか」一辺倒になると、昔ながらのホクホク系サツマイモなど、多様な品種が失われてしまう。
それは、消費者の選択肢を狭めるだけでなく、長年培ってきた栽培技術の継承が途絶えてしまうことにも繋がりかねません。
高橋農園が、あえて手間のかかる「紅赤」をはじめ、12品種ものサツマイモを栽培し続けるのは、まさにこの「べにはるか問題」に真っ向から向き合い、この土地の多様なサツマイモ文化を守り抜こうとする、高橋さんの強い決意の表れなのです。
奇跡の再会「紅赤」に込められた想い

特に「紅赤」は、高橋農園のこだわりを象徴する品種です。
120年以上も前に埼玉で発見されたこの突然変異種は、病気に弱く、収量も少ないため、栽培が非常に難しいとされてきました。
しかし、その味わいは格別。
一口食べると、軽い食感の中に、優しくも力強いサツマイモ本来の甘みがしっかりと残ります。
この貴重な「紅赤」を、高橋農園では大切に育て、次世代に繋いでいます。
それは、単に美味しいサツマイモを生産するだけでなく、この土地の歴史と文化を未来へと継承していくという、大きな使命感に支えられています。
高橋敦士さんは、子供の頃から就農することが当然と考えていたという、生粋のサツマイモ農家です。
彼の人生は、この三芳町の土とともにあり、その深い愛情と飽くなき探求心が、私たちに最高のサツマイモを届けてくれています。

「いも街道」に広がる美しい茶畑を訪れ、高橋農園のサツマイモを味わってみてください。
それは、約320年の歴史と、一人の若きリーダーの情熱が詰まった、他では決して味わうことのできない、格別な体験となるはずです。
これまで持っていたサツマイモのイメージが変わるかもしれませんよ。

高橋農園について
住所:埼玉県入間郡三芳町上富206
営業時間:10:00〜17:00
公式HP:https://kawagoeimo.thebase.in/

