陶芸家・増渕明の世界:炎と土の対話が生む「一期一会」の景色
栃木県益子、そしてその近郊の宇都宮を拠点に活動する陶芸家、増渕明(ますぶち あかる)氏。
毎年多くの人々で賑わう益子の陶器市ではおなじみの作家さんですが、その作風と製作工程においては、現代の陶芸界で一際異彩を放っています。

彼の器に宿る力強い魅力は、昔ながらの「登り窯」での焼成と、あえて難度の高い素材を選ぶという、妥協なき「こだわり」から生まれています。
現代に稀な「登り窯」への挑戦
現代の陶芸作家の多くは、温度管理が容易でコストも抑えられる電気窯やガス窯を使用します。
しかし、増渕氏は、昔ながらの登り窯での焼成にこだわり続けています。
登り窯とは、山の斜面などを利用して作る「かまくら」のような構造の窯のこと。
薪をくべて火を起こし、炎を「目で確認」しながら温度を管理するという、極めてアナログで手間のかかる焼き方です。
宇都宮の郊外に登り窯を構える彼の工房は、この地域では唯一無二の存在かもしれません。

この登り窯での焼成は、まさに炎との真剣勝負。
同じ条件で火を入れても、薪の燃え方、灰の降り方、窯内の空気の流れなど、様々な要因が複雑に絡み合い、焼きあがる作品は、「同じものはひとつとして無く、違う変化が出ることがほとんど」です。
この予測不可能な炎の力こそが、増渕氏の器に「一期一会」の独自の表情と奥行きを与えています。
彼は、この難易度の高い手法をあえて選び、手間とリスクを厭いません。
計算では生み出せない、自然な焼き色や、力強い土の表情を追求しているからです。
夏の間に窯焼きが上手くいかず、多くの作品を失敗してしまうこともあるといいますが、その困難さもまた、彼を突き動かす探求心の一部でしょう。
手間のかかる登り窯で作られた作品は、一点一点表情の違いや素材を楽しめるものばかりです。
益子の土との対話と「遊び心」

増渕氏のこだわりは焼成方法に留まりません。
彼は、他の土に比べ「ちょっと扱いにくい」性質である、地元益子の土を好んで使っています。
温度管理の難しい登り窯と、この難易度の高い土の組み合わせは、製作のハードルをより一層高めています。
それでも彼は、困難な道を選び、益子の土の持つ素朴な風合いや力強さを最大限に引き出すことに情熱を注いでいます。
その結果生まれるのは、洗練された「かいらぎ」とはまた違う、土味と炎の跡が力強く融合した、独特の魅力を持った作品たちです。
一方で、彼の作品には、純粋な芸術性や伝統技術の枠を超えた、温かい「遊び心」が散りばめられています。
例えば、窓際で存在感を放つ大きな丸い貯金箱。
あまりに大きすぎて「動かせない」という問いに対し、「転がすんです」と答えるユーモア。

また、たった三本しか立てられないペン立てなど、実用性の中にわざと「無駄な」要素を忍ばせることで、器を使う人・見る人の想像力を刺激し、日々の生活にささやかな笑いと豊かさをもたらしてくれます。

日常を豊かにする「一点モノ」の出会い

増渕氏の個展や、毎年参加する益子の陶器市で彼の器が多くの人をひきつけるのは、その技術的な高さや、土と炎の力強い景色だけが理由ではありません。
彼の器には、規格化された製品にはない、すべてが一点モノであるという、特別な価値があります。
登り窯の炎が生み出す偶然の焼き色、土の表情、そして増渕氏自身の「遊び心」が融合することで、一つとして同じものがない、唯一無二の存在となるのです。

彼の作品は、ゴージャスなたたずまいのものから、日々の食卓を彩るシンプルな食器まで多岐にわたります。
どの作品も手に取る人に、炎と土が対話した長い時間を想像させ、大切に使いたいという愛着を抱かせてくれます。
昔ながらの手法と難易度の高い素材にこだわり、現代の感性で新たな表現を追求する増渕明氏。
彼の生み出す器は、作り手の情熱、炎の力、そして土の生命力が凝縮された、「一期一会の出会い」を約束してくれる芸術品でもあります。
増渕さんの器を使うことで、ふだんの暮らしがちょっと特別な時間になります。
飾っておきたくなるアートのような器は、見る度、使う度に笑顔になれそう。
皆さんも、唯一無二の作品を日常使いしてみませんか。
【増渕明(ますぶちあかる)さんについて】
■経歴
1970年 栃木県宇都宮市に生まれる
2002年 益子にて陶芸を学ぶ
2004年 宇都宮市内に築窯(みずほの焼 登窯)
2015年 陶芸展 in VANILLA宇都宮
2017年 バーニーズNY各店舗にて一輪挿しワークショップを開催
公式Instagram :https://www.instagram.com/akaru212/

