稲右衛門窯:伝統と革新が織りなす「ハイブリッドな丹波焼」の世界へ
日本六古窯の一つとして名高い丹波焼。
その長い歴史の中で、常に新たな息吹を吹き込んできた窯元が、兵庫県丹波篠山市の立杭にあります。
それが、約280年の歴史を誇る稲右衛門窯です。

江戸時代中期、初代稲右衛門が白丹波、黒丹波、墨流しといった名品を世に残して以来、代々その技術と精神を継承。
現在、十一代目稲右衛門・上中剛司(うえなか つよし)氏が、伝統を礎にしながらも、現代のライフスタイルに響く、独創的な作品を生み出し続けています。
この記事では、その独創的な作品が生まれる理由をご本人へのインタビューをもとにお伝えします。
「作り手」としての誇り:器と使い手の関係性

上中氏が好んで使うのは、「作家」ではなく「作り手」という言葉です。
「『作家』という言葉は偉そうな響きがあって苦手です。
一方、『作り手』は誰におもねることなく偉ぶることなく、器を作る人という、そのままの事実なので気持ちがいいのです」と語るその姿勢に、飾らない実直さと、生み出す作品への真摯さが垣間見えます。

彼にとって、器は「作り手半分、使い手半分」で完成するもの。
丹精込めて土を練り、ろくろを回し、釉薬を施し、炎と向き合って生まれた器は、使い手の手に渡り、日々の暮らしの中で使われて初めて、その真価を発揮する。
この「作り手」と「使い手」の間に生まれる温かな関係性こそが、稲右衛門窯の器づくりの根底に流れている哲学です。
伝統と今風の融合が生む「ハイブリッドな丹波焼」
約800年の歴史を持つ丹波焼は、柳宗悦に「渋さの極みを語る最も日本らしい品」と称されたほど、土の持つ素朴な風合いや、窯変による自然の景色を特徴としてきました。
上中氏は、この丹波の土と伝統を大切にしながらも、従来の丹波焼には見られなかったカラフルで鮮やかな色彩を積極的に取り入れています。
“伝統”+“今”=ハイブリッドな丹波焼が、上中氏の真骨頂

上中氏の作品は、丹波焼の特徴的な技法である、美しく繊細な稜線文様「鎬(しのぎ)」や、水面に墨を流したような優美な柄を生み出す「墨流し」といった伝統的な表現を継承。
そこに鮮やかな色彩をまとわせることで、レトロでありながらもモダンで、ひと際目をひく作品群を創り出しています。
「カラフルさ」には、単なる派手さで終わらない深みがある

「きれいな色を出すため、通常より低い温度で焼き上げる。釉薬に適した温度があるんです」と語るように、色合い、色調、フォルム、そして焼成温度に至るまで、徹底的にこだわります。
この妥協を許さない探究心と、国内外での研鑽(2013年フランス・パリでの個展、2014年セーブル・ビエンナーレ出品など)で培われた感性が、丹波焼の奥深さと新たな可能性を感じさせる作品を生み出しているのです。
「モノ」から「コト」へ:INAEMON pottery studio & cafe
さらに、2022年10月に新たな試みとして、窯元に隣接した場所に「INAEMON pottery studio & cafe」をオープン。
カフェの場所は、かつては、上中氏の祖父や父が作陶に励んだ元作業場を改修した空間。
過去に使われていたレンガ窯を象徴として据え、窯元の歴史を感じられるモダンで上品な「半屋外空間」にリニューアル。

このカフェの狙いは、単なる器の販売である「モノ」消費から、窯元での滞在や体験を楽しむ「コト」消費へのニーズの変化に対応すること。
訪れた人々は、モダンな空間でコーヒーや、地元の老舗和菓子店が考案したオリジナル和菓子を味わうことができます。
しかも、そのメニューはカラフルな稲右衛門窯の器にのせて提供され、器を「使う」という体験を直に楽しめます。

上中氏は「窯元巡りの中で居心地の良い時間を過ごせて、『モノ』から『コト』を楽しめる空間にしたい」と語ります。
また、ここでは、陶芸体験(手びねり、電動ロクロ、彩色デザインコース)も可能。
訪れた人、自らが「作り手」となり、丹波焼に触れることもできるのです。
ハイブリッドな丹波焼・稲右衛門窯の器でいつもの食卓を特別な空間に
今回は、丹波焼の窯元・稲右衛門窯の器作りへの思いやこだわりについて紹介しました。
古き良き美しい里山・立杭で、伝統的な薪窯や登り窯を守りながら、国際的な舞台で感性を磨き、そして、現代の生活に彩りを添える器を創り、さらに、その器を楽しむ空間まで提供する稲右衛門窯と11代目・上中剛司氏。
伝統を深く理解し、その上で新しい地平を切り開く彼の姿勢は、丹波焼の未来を明るく照らしています。
稲右衛門窯は、「作り手」と「使い手」、「モノ」と「コト」を繋げる、新しい文化の発信地と言えるでしょう。
丹波篠山の美しい自然の中で、稲右衛門窯のハイブリッドな丹波焼を手に取ってみませんか。
そして、ふだんの暮らしで使って、アートのようなデザインと使い心地の良さを実感してみて下さい。
いつもの食卓風景が変わり、食事時間がよりいっそう楽しくなることが、実感できるのではないでしょうか。
【稲右衛門窯について】
公式HP:https://inaemongama.com/
〈上中剛司さん経歴〉
2003年 京都府立陶磁器訓練校卒業
2004年 京都市工業試験場修業
父、十代目稲右衛門に師事する
2006年 グループ窯会員
2009年 カレイドスコープ昔館と陶万華鏡を共同制作
2013年 galerie Yakimono(フランス・パリ)にてExposition TAMBA開催
2014年 セーブル国際陶磁器美術館主催、セーブル・ビエンナーレ(フランス・パリ)出品
2015年 Eutectic Gallery(アメリカ・オレゴン)にてstoked展開催
東武百貨店(東京・池袋)にて個展開催
2016年 兵庫県立美術館にて景徳鎮
日本現代陶芸展~炎と筆の競演~出品
2017年 東武百貨店(東京・池袋)にて個展開催
■本店
所在地:兵庫県丹波篠山市今田町下立杭183
営業時間:10時~17時(不定休)
■NAEMON pottery studio & cafe
兵庫県丹波篠山市今田町下立杭341-1
営業時間:11時〜日暮まで(土・日・祝祭日のみ営業)

